こんにちは。元漫画家志望の松田です。
漫画家志望と聞いて、みなさんはどんなことをしているか想像つくでしょうか?「バクマン。」を読んだことがある方であれば、ある程度はわかるかもしれません。
漫画を描いて投稿や持ち込みをしながら、新人賞や雑誌の掲載を目指しているのです。
投稿とは、完成した漫画を新人賞に投稿することです。入選したり、編集者に気に入ってもらうと担当がつき雑誌の掲載に進むことができます。
それに対して持ち込みは、完成した漫画を出版社に持って行って直接編集者に見てもらうことです。編集者から直にアドバイスがもらえます。最近では、出版社に行くことができない地方の漫画家志望者向けに、出張編集者に見てもらえるイベントも開催されるようになりました。
僕は一応、元漫画家志望なので持ち込みや投稿くらいしたことがあります。「バクマン。」の主人公のようにはなれませんでしたが、持ち込みに行ってきた体験談をまとめてみました。ぜひ読んでみてください。
持ち込みは少年ジャンプに3回行った
僕は「ONE PIECE」を読んで漫画家を志したので、最初から少年ジャンプに目標を絞っていました。ジャンルも少年ジャンプらしいバトル物を主に描いていた記憶があります。
最初に漫画を描いたのは高校3年の5月でした。もともとめんどくさがりの性格を自覚していたので、どこかで発破かけてやらないと一生やらないだろうなと感じ、
1ヶ月で1作完成させる
と決めて取り組みました。あの頃は家で起きている間は、ご飯と風呂以外は原稿に向かっていることがほとんどだったと思います。学校に登校する前に1ページ描いたりもしていました。このおかげで、最初の目標通り、1ヶ月で1作なんとか完成させることができました。結果は全然ダメでしたが・・・。
この後に2作投稿したのですが全く進歩が無く、実際に編集者の生の声が聞ける持ち込みをしようと思いました。
持ち込み先はもちろん少年ジャンプです。ジャンプの新人賞募集のページに持ち込み用の連絡先が書いてあるので、電話で予約して持ち込みに行ってきました。
3回の持ち込みで2人の編集者の方に見てもらったので、当時の作品の簡単な内容と寸評も含めて書いていきます。当時の原稿も残っているはずなのですが探すのが面倒なので、記憶を頼りにどんな感じの主人公だったのかも載せてみました。
編集者Sさんへの持ち込み
1回目と2回目は、Sさんという編集者に見てもらいました。
Sさんは、ジャンプ編集部内で名物編集者なのかよくわかりませんが、ジャンプ作品でたまにキャラクターのモデルにもなっているような方です。会って話してみた印象は、喋り方が独特だけど接しやすい、という感じでした。
某イケメンバスケ漫画や、ヤクザやらマフィアやらのハーレムラブコメを担当されていた経歴をお持ちの方だそうです。
1回目の持ち込みのとき
人生初、自分以外の人間に自分の作品を見せる機会だったので、超がちがちでした。まあ、仕方ありません。
とりあえず、作品を出してSさんに渡します。
よく持ち込み体験談で、
編集者の読むスピードが速くてちゃんと読んでるのか不安になった
と言う話を聞きますが(「バクマン。」内でもありましたね)、Sさんは特に速く感じませんでした。僕が普段漫画を読んでいる時のスピードと変わらなかったですね。大ゴマなどコマ数が少ないページはさらっと読んでいましたが。
この時の作品は、
魔法を使える泥棒が、同じく魔法が使える警察官と戦う話
でした。確か、金曜ロードショーで「ルパン三世」を見て、「泥棒を描きたいなあ」と思ったのがきっかけだった気がします。今見ると、設定やら世界観がメチャクチャです。
あまり考えずにやりたいことを詰め込んだ結果ですね。
では、当時の寸評を振り返ってみましょう。
良いところ
無し。
何一つ褒められませんでした。
悪いところ
ここからが本番みたいなものです。
主人公の髪型
この時の作品で僕は何を思ったのか、髪の毛を1本1本ペンで描いていました。しかも、天パでこれが、「カッコよくない」と、ズバッと言われてしまったのです。
世界観がわかりづらい
舞台設定は現代だったのですが、その世界観で魔法が出てくるのであればその概念や成り立ちの説明が欲しいとのことでした。やはり突っ込まれてしまいましたね。
ラストがダメ
ラストは一旦逮捕された主人公が敵の一瞬のミスをついて脱出して終わりという形だったのですが、敵の行動がアホすぎてダメだと指摘を受けました。この時にSさんから、「敵には全力を出させる。主人公がさらにその上をいくからカルタシスが生まれるんだ」とアドバイスをもらい、非常に響いたのを覚えています。
これ以外にも細かく指摘されましたが大体こんな感じでした。
作品についてはコテンパンだったのですが、最後にSさんから、
「次ができたら自分に見せてね」
と言われて、また頑張ろうという気持ちが持てました。
2回目の持ち込みのとき
予約の電話を入れると、初めての持ち込みかどうか聞かれました。2回目であることを伝えると、誰に見てもらったのか聞かれ、同じSさんに診てもらえることに。
この時に実は、遅刻という大失敗を犯してしまいました。最寄駅に着いたのは30分前くらいだったのですが、道に迷ってしまったのです。
2度目というのもあり迷うことはないだろうと高を括っていたので、地図なども用意していませんでした。当時はスマホではなくGPSも付いていないようなポンコツガラケーだったので自分がどこにいるのかも定かではありません。
そして約束の時間になり、
終わった・・・。
もう絶望しかありませんでした。
あの時はマジでヤバかった・・・。
とにかく行くだけ行ってみようと、走り回ってなんとか集英社のビルを見つけ受付を済ませ、持ち込みスペースに座りSさんを待ちました。少ししたら上からSさんが降りてきて、遅刻したことを謝罪すると、
「ん、大丈夫だよ」
と、ことなきを得たのです。とりあえず安心しました。
この時の漫画は、
悪い3兄弟の元で奴隷として働いている少年の元に腹を空かせたヤンキー風侍の主人公がやってきて、一宿一飯の恩で敵を倒す
という、どこかで見たことがあるヤツでした。「銀魂」の中でも言われていました。そういうのダメだって。
ということで寸評いってましょう。
良いところ
無し。
進歩がありません。
悪いところ
今回もがっつり指摘を受けました。
キャラクターの絵柄がダメ
特に意識していたわけではないのですが、絵柄が鳥山明風と指摘を受けました。
僕はずっと「ONE PIECE」を模写していたのですが、尾田先生はドラゴンボールから影響を受けいているので間接的に影響を受けてしまったのでしょうか?
とにかく、今の時代にこれはダメ、古臭いと言われました。
キャラクターが薄い
それっぽいセリフを喋らせているだけでキャラクターの人間性が見えてこない、と言われました。「名言ぽいことを言ってもキャラクターにそれを言わせるだけの人間性がなければ説得力が無い。回想やちょっとした行動でそのキャラクターが、どんなことを考えてどんなことを信条としているのか、しっかり描いて欲しい、」と指摘を受けました。
2回目で言われたことは大体以上のことです。
キャラクターにツッコミが入ったときにSさんから、
「好きな漫画は何?」
と聞かれとっさに、
「ハンターハンターとかですかね・・・」
と答えてしまい、当時絶賛休載中だったので気を悪くしないかヒヤヒヤしたのですが、Sさんもハンターハンター好きだったらしく、主人公のゴンを具体例にアドバイスをしてくれました。
その時の具体例ですが、
©POT(冨樫義博)
上のシーンからゴンの人当たりの良さがわかる、と上げていました。
また、絵柄が古いと指摘されたので、新しい絵柄と古い絵柄の具体例を聞いてみたところ、
「個人的な意見だけど・・・」
と前置きした上で、
「家庭教師ヒットマンREBORN!」が新しい
©天野明/集英社
「PSYREN」が古い
©岩代俊明/集英社
と意外に、言いづらそうなことまで答えていただけました。この意見には思わずなるほどと今でも思います。
その後
僕が持ち込みに行った何ヶ月かのちに、ジャンプでSさんが担当した新人作家さんのデビュー作が掲載されたのですが、
鳥山明風で天パの主人公
が登場する作品でした。僕にしてくれたアドバイスはいったいどこに・・・。
その漫画は、金未来杯(ゴールドフューチャーカップ。4~5週間にわたり新人読み切りが掲載される。読者アンケートの結果で1位になった作品はのちに連載になる)の作品でしたが、1位を取ることができず、連載になることもありませんでした。
個人的に設定や世界観は好きだったので、主人公のデザインさえSさんの漫画論通りにやればアンケートも取れたんじゃないかな、と今でも思うんですがどうなんでしょう。
編集者Kさんへの持ち込み
3回目は、初めての持ち込みと嘘をついて新しい方に見てもらいました。理由は2回目の持ち込みから間が空いてしまったので、心象が良くないかもしれないと思ったからです。決して上記のSさんの担当された新人デビュー作がイマイチだったからではありません。
その時に担当してもらったのがKさんです。Kさんも話しやすい親切な方でした。後で調べてみたら、Kさん自身も昔、漫画を描いていたそうです。
一時期、別雑誌に異動してジャンプ系の情報番組にも出演されていました。その後は再びジャンプに戻り、某魔法バトル漫画を担当されているみたいです。
この時に持ち込んだのは、
何かの敵を探して旅をしている女の子が凄腕の剣士と出会い、谷に突き落とされて虎と戦う話
(主人公はよく思い出せませんでした。作者自身の記憶にも残らないってキャラデザとして致命的ですね・・・)
またよくわからん話を考えたものですね。自分の記憶の中にはしっかりとあるのですが、言語化すると意味不明です。脈絡が無さ過ぎます。
それでは寸評です。
良いところ
1コマだけ構図が良い。
いろいろ指摘を受けている途中に、
「このコマの構図は良いんだけどなあ・・・」
とボソッと言われました。ちょっとしたところでしたが、初めて褒められた点だったので結構嬉しかったです。
悪いところ
さあ、前回から成長したのでしょうか?
敵がショボい
「何で虎なの?」と言われました。正論です。今の自分にもわかりません。
やはり敵は人間か人形で知性があるキャラクターが良いそうです。
ドラマが薄い
「主人公が何か人を探しているという目的があるのはわかるが、そのキャラクターがどういう人物で主人公とどういう関係があるのかをページを割いて説明しないとダメ」と指摘を受けました。
読み切りなので謎を残すのは良くない、描ききるべきとも言われました。
背景が下手
舞台設定を山の中にしていたのですが、「木や草の描写が全然ダメ。こればかりは練習だから、いっぱい描いてください」とアドバイスをいただいきました。
ほんの少しですが褒められて、最後に名刺もいただけました。「バクマン。」の中では持ち込みした新人全員に名刺を渡していると描写されていましたが、編集者によるようです。
ここからは自分の作品と関係ない話になるのですが・・・。
当時、「逢魔ヶ刻動物園」が打ち切られた直後だったのですが、Kさんが作者の堀越耕平先生の話をしてくれたのを今でもよく覚えています。
「堀越先生は毎日、原稿以外に1枚必ず練習用に描いている。画力を上げるためにね。今回はダメだったけで、これから絶対に来る作家さんだから覚えておいてよ!」
と、猛プッシュしていました。その後、「僕のヒーローアカデミア」でジャンプの看板にまで上り詰めたときは、なんだか自分のことじゃないのに嬉しかったですね。
それ以来僕は、堀越先生のファンです。
まとめ
ネット上の体験談などでは、
- 高圧的な態度だった
- 作品をしっかり読んでくれていなかった
- 的確なアドバイスをもらえなかった
など、よくない話も聞きますが、僕に限って言えばとても真摯に対応してもらえたと感じました。1回30分くらいでしたが、作品もしっかり読んでもらえたし、質問をすれば嫌な顔もすることなく答えてもらえます。
編集者の方も人間だし、雑誌編集は完全に夜型でストレスも多そうな職種なのでいろいろあると思います。時には対応が雑だったり、態度が横柄だったりすることもあるかもしれません。しかし僕は、作家側に何の落ち度も無かったと言い切れるのか少し疑問に思います。
実際に持ち込みに行くときに僕が気をつけていたのは、
- 遅刻しないこと(1回だけやってしまったけど)
- 挨拶すること
原稿を見てもらう前に「よろしくお願いします」
終わりに「ありがとうございました」 - 言われたことはメモを取ること
- 質問は積極的にすること
このくらいでした。
これだけやってもダメな編集者はいるかもしれませんが、やる価値はあると思います。僕は諦めてしまいましたが、漫画家志望の方がいれば参考にしてもらえたら嬉しいです。