『ラブレター代理人の〜』 5人のショートショート

こんにちはタロウです。

以前書いたブロガーたちのショートショート、「足の臭いシンデレラ」に続いて2本目のショートショートです。

テーマは「ラブレター代理人の〜〜」

あえて幅を出したので個性ある文章をお楽しみください。

ラブレター代筆人の一目惚れ

『おじいちゃん?それ誰からの手紙?』
4歳の孫が服を掴んで聞いてきた

「これはね、おじいちゃんがおばあちゃんからもらったラブレターなんだよ」
この話をすると、妻はいつも嫌そうな顔をする。この理由を知っているのは僕だけだ。

〜時は遡り40年前〜

僕は一心不乱に手紙にペンを走らせていた。
「『ひ、と、め、ぼ、れ、で、、、す』っと」

はぁ、、、
人生で100度目の『ひとめぼれです』を書いたところでため息が漏れた。

僕の仕事は手紙の代筆。そう言うと「そんな仕事存在するの?」と思う人もいるかもしれない。
しかし、文章を考えることが苦手な人だったり、字が汚い人だったり、と意外とニーズはある。客層も老若男女問わないので、おかげで100パターン以上の字を書けるようになった

ただ、その多くがラブレターの代筆なのだ。そしてその多くの内容が『ひとめぼれ』
うんざりする。内面を見ず人を好きになるなんてまったくもって非合理的だ。

まあ、これ以上文句を言っても仕方ない。食いぶちを失うわけにもいかないので、適当な言葉を並べてそれっぽく手紙にしている。

「よし終わり!」
これをお客に送ればおしまいだ。切手を貼ってボストに送るだけなのだが

しまった、、、
切手を切らしていた、近所の郵便局で切手を買うことにしよう。

家の近くにある郵便局向かった。受付で切手を買おうとしたその時だった
衝撃が走った。受付の女性が息を呑むような美人だったのだ。

「どうしました?」
その女性は心配したように声をかけた

「ああ、切手をお願いします。」
そう言って僕はお会計を済ませ、手紙はポストに投函して家に帰った。

「いつも使っている郵便局だったが、あんな女性いたのか。しかし美人だった」
そして僕はそれから手紙を出す際はかならずその郵便局を使うことにした。彼女がいない日もあれば、別の女性に対応される日もあったが、時々一言二言話せるのが楽しみだった。

そして1ヶ月経った頃

切手を買う時、その女性から「良かったらこれ読んでください」と手紙を受け取った

はやる気持ちを抑え家で手紙を読むと、
『ひとめぼれです』と書かれていた。

そう僕が100通目に書いたハガキだった…

 

一目惚れを信じていなかった僕だが、この恋は40年も続いている。

 

作:@syuty

ラブレター代筆人の初恋

私はラブレターを書く仕事をしている。
誰かの代わりに、ラブレターを書く。
そう、ラブレター代筆人。
10年前に始めたこの仕事がなかなか好評なのだ。

ただラブレターを書いているわけではない。私は幼い頃から人の想いが見える、という能力を持っていた。
周りから羨ましがられたり、不気味がられたりする普通ではないらしいこんな能力、ないほうがよっぽど良い。
人の想いが目に見えるって、こんなに辛いことはない。
私には生まれたときから親がいない。親戚の家をたらい回しにされて、10歳から高校卒業まで施設で育った。それから1人で生きていくためにいろんな仕事をしたが、どこにも私の居場所はなかった。
親戚にも施設の人たちにも感謝はしている。でも、みんな私の存在を鬱陶しがっていた。泣いても笑っても、どこにいても、生まれてこなければよかったのにって顔に書いてあった。

施設に入ってすぐに、チョコレートが大好きな男の子と仲良くなった。困ったようにくしゃっと笑う彼と過ごす時間だけが、唯一の救いだった。彼の想いだけはなぜだか最後まで見えなかったけど、楽しかった。たまにおやつで出るチョコレートを半分こして大事に食べた。
だけど彼は養子になって、遠くへ行ってしまった。最後の日にくれたラブレターを、私はなんだかいつまでも捨てられずにいた。それが恋だったと気づいたのはつい最近のこと。後にも先にも、人を好きだと思ったことはなかった。

容姿は飛び抜けて綺麗なわけではないが、特に不細工でもない中の下くらい。だから彼氏がいたこともある。だけどぜんぶ見えてしまう。
ただやりたいだけとか、家族がいなくてかわいそうだとか、浮気したあの子にまた会いたいとか。見たくないものも、見えてしまう。

でも、みんなはそれらが見えないらしい。
私は想いが見えるから人の気持ちを言語化するのが得意で、それを思い切って仕事にしてみたら、なんだか形になってしまった。

今日も1件予約が入っているが、「ずっと探している初恋の人にラブレターを書いてほしい」なんていう奇妙なメールだったから、たまにある冷やかしかもしれない。
待ち合わせのカフェに着くと、クラシックショコラをおいしそうに食べている男の子がいた。
それはもう、おいしそうに。

目が合った瞬間、私は泣いていた。その人は困ったような顔でくしゃっと笑った。

『君もチョコレート、食べる?』

 

作:@onikamoyo

ラブレター代理人の決断

ある日、学校に行くと私の下駄箱に白い封筒が入っていた。
誰にも見られないようにと、トイレに駆け込み荒い息を抑えながら手紙を読んだ。
そこには私に対する恋の気持ちが書かれていた。たどたどしい内容だが、私が今最も欲している文章が的確に表現されていた。
この男性と付き合ってみたい、誰もがそう思うだろう。

・・・

私は文学が好きな女子高生。
私の人生をざっと振り返ると、幼い頃から両親が不仲で、怒鳴り声が聞こえないように部屋にこもってずっと本を読んでいた。本は自分の世界に入れるので大好きだ。高校一年生の夏にようやく離婚が決まり、ここに引っ越した。たまたま近くに日本初の文学科のある今の中高一貫校があったので、転入学試験を受けた。後からわかったことだが、試験の国語が満点であることがラブレター代筆人として選ばれる条件だった。
転学初日の放課後、2年生の先輩に連れられて裏・文芸部の部室に行き、ラブレター代筆人の仕事を請け負うようになった。裏・文芸部があることはほとんどの先生・生徒には知らされていない。
この高校には昔から「ラブレター代筆人に書いてもらったラブレターを渡せば100%確実に付き合える」という伝説があった。
昔はこの地域特有のものだったらしいが、SNSが発展した今となっては全国各地からラブレター代筆の依頼が来ている。依頼の受け渡しは給食のおばちゃん経由で秘密裏に行われる。お互いに干渉しない取り決めがあり、向こうの名前は知らないし、向こうも誰がメンバーかは知らされていない。ただし知っているのは、給食のおばちゃんは卒業生であり、裏・文芸部員だった可能性が高いということだった。
私たちのところに来る情報は「告白者と告られ者の概要」だけだった。そこから想像力を発揮して100%成功するラブレターを代筆する。
書くことを全くしていなかった私も先輩方にしごかれて、どんどん腕を上げた。最初は年下にも注意される始末で悔しい思いもしたが、自分が書いたラブレターで告白が成功している話を聞くのは嬉しく、やりがいもあった。

・・・

そんな理想的なラブレターをもらっても私の心には一切響かない。
なぜならそのラブレターは私が書いたものだからだ。
書くときになぜ気付かなかったのか。告白者と告られ者の概要はたしかに確認した。しかし全国各地から送られてくる概要で似たような人はたくさんいる。同じ名前だって何人もいる。しかもまさか自分だなんて思うはずもない。同じ名前だったから、私がこれもらったら感動して付き合っちゃうなと思ったけど、それが自分宛だなんて1ミリも思ってない。
こういうことはあるのか?と先輩方に聞いてみたが、歴代の先輩方の教えでは「付き合え」ということだった。

私たちが書いたラブレターは絶対に成功する。

私たちには歴代の先輩方が築いてきたものを守る義務がある。
しかし私が拒否してしまえば、それは崩れる。
かといって相手のことは好きではない。
どうすればいいのか。
私は今、試されている。
勇気を出して答えを求めた。
私の頭の中にドッキリではないかという結論が導き出された。
そうだ、きっとそうに違いない。
確信めいた気持ちを胸に、指定された場所へ踏み出した。

 

作:@ikarugaissei

ラブレター代筆人の苦悩

男は机の前でペンを握ったまま止まっている。
筆が先に進まないようだ。
時間だけがイタズラにすぎていく。
この一文を書き、すでに2時間が経とうとしている。
イマジネーションが湧かないようだ・・・

苛立ちを感じるその背中から、フッとため息が漏れた。
ふいに思い出す。
このサービスを始めた時のことを。

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ココナラというサービスができて久しい。
自分の”得意”を提供するサービスだ。
男は、「ラブレター代筆します」というサービスを提供している。

ネットが普及して以降、リアルな人と人との繋がりが希薄になったと言われているが、果たしてそうだろうか。
確かに告白やプロポーズ、大切な心の内を相手に伝えるのにラインでカジュアルに済ませてしまうのは勿体無い。
でも・・・こんな時代だからこそ、もっと相手の心に刺さるような・・・
想い人の心にいつまでも残るような、そんな告白を応援したい。
それをカタチにしたもの。
それがこの「ラブレター代筆人」というサービスだ。

彼はもとより文才があり、人気ブロガーとして界隈では名が通っている。
彼のライターとしての能力は多くの読者の心を惹きつけ、同業者からも支持されるほど。疑う余地もない。
そんな彼が、代わりにラブレターを作ってくれるということでそれは大きな反響を呼び、今では大人気のコンテンツとして受け入れられている。

もちろん・・・
反発もあった。

「ラブレターなんか書いてもらうものじゃない」
「ちょっと売れてるからって、人の告白や想いを代弁なんて何様?」

でも、彼は挫けなかった。
強い気持ちでこのサービスを成功へと導いた。

気づけば多くの支持者に囲まれていて・・・
たくさんの笑顔に包まれていた。
そこには確かに、愛が溢れていたんだ・・・

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「フゥ・・・やるか・・・」

そう漏らすと、男は再び筆を握る。
依頼者の恋を叶えるために。
多くの人に、笑顔を届けるために。

この世界はいつだって、愛で溢れている。

向かった先の手紙の一文にはこう書かれている。

『拝啓 片桐はいり様』

Fin.

 

作:@goofam_fam

ラブレター代筆人の矜持

俺はこの仕事に誇りを持っている。
世間一般にはまだ浸透されていないかもしれないが、依頼人の幸せをお手伝いする最高に意義のある仕事だ。

当然依頼人の恋愛を成就させるために一切手は抜かない。
これまでも成功率100%という無傷の経歴で、国内トップレベルの代筆人と自負している。

そんな俺に、いつものようにまた依頼が舞い込んできた。

冴えないサラリーマンが、接待で同席したキャバクラ嬢に恋をしたんだそう。
よくある話だし、普通は無理な案件だ。なんせ相手は仕事で興味も無い男に付き合ってあげてるだけ。
恋愛に不慣れな男はすぐに勘違いして恋をしてしまうのだ。

だが、国内トップレベルの代筆人である俺クラスなら、逆にキャバ嬢を落とせる品質のラブレターをこしらえることだって可能だ。

多少値は張るが、俺としても十分過ぎるくらいの依頼金を用意されている。
久々に歯ごたえのある仕事ができそうだ。これぞ代筆人の血が騒ぐというもの。

早速ターゲットとなるキャバ嬢を探る。
この仕事は文章力や恋愛テクよりも、相手をどれだけ攻略できるか、つまりリサーチ力が最も大事なのである。

どれどれ、ん?この子どこかで…。
…こっ、これはっ、みくちゃん!!?

なんということだ、今回のターゲットであるキャバ嬢は、中学時代の俺の初恋の相手である、みくちゃんではないか。

やはり相変わらず美人で色気がある、俺の見る目は悪くなかった。
ただ、初恋の相手とはいえ、私情を挟むのは三流の仕事だ。俺は依頼人の幸せだけを願っていればいい。

この偶然を活かさない手は無い、俺は彼女のことをよく知っている。
彼女の好きな食べ物も、お気に入りの音楽も、初めての彼氏のことも、実家の住所も。

俺は全て知っている。
帰り道に一定距離を保って、共に登下校していたのだ。どこのコンビニに寄って何の雑誌を立ち読みしていたのかも全部知っている。

当然リサーチには時間を要しなかった。俺は知っている情報を惜しみなく利用し、彼女の好きそうな文面と内容で熱いラブレターを代筆した。最後には渾身のポエムも織り交ぜておいた。

予定よりも大幅に早い納品で自信の程が伝わったのだろう。
依頼人は満足そうに受け取り、すぐさまラブレターをキャバ嬢に渡しに向かっていった。

俺の役目は終えた。
俺の依頼人はラブレターを渡し終えると、大抵喜び狂って連絡してくるが、今回は何の音沙汰も無い。
まぁ幸せにやってるんだろう・・・

 

作:@Mura_jumper

ラブレター代理人の嘘

「1年前のあの日、私はある人から手紙を預かりました。『これを、わたしが好きな田中くんに渡して欲しい』と。
それは、まぎれもないラブレターでした。
わたしはその子ととても仲が良かったので、当然その役目を受けました。

でも、わたしも田中さんが好きだったのです。
だから、嘘をつきました。
その子には、『田中さん、受け取ってくれなかった。別に好きな人がいるんだって』と言いました。
手紙は誰の目にも触れないようにわたしの部屋の机に隠してあります」

「それをなんで、いま、言うの?」

「あなたがわたしのことを嫌いになってくれればいいのに、と思って」

「嫌いになんかならないよ、だって僕はこんなに君のことが好きなんだから。
でも、悪い人だね、君は。
その子とは仲が良かったんだろう?なのに自分が傷つきたくないから、悪いことをしたね?最低だね?友達より男をとるような女なんだ」

ばちん、と頬がたたかれる。刺すような痛みのあとに、じわじわっと熱が広がる。
間違ったことをした罰なのだ。私が心の汚い人間だからいけないんだ。

嘘をついた。田中さんをとられたくなかった。
その結果、いま、田中さんはわたしのものだ。ううん、わたしが田中さんのものになった。
嘘をついた代償に、わたしは愛を試されているのだと思う。

作:@robotenglish

 


 

最後の記事替エモ過ぎて、なぜ頬を叩かれたの?ってなりましたが、全体的にハッピーエンドで終わったのでよしとしましょう。

 

もし「こんなお題で書いて欲しい」というのがあれば提案してください!

では!

ABOUTこの記事をかいた人

タロウ

1990年3月9日神戸生まれ。 webが好きです、でもラーメンはもっと好きです。SEOには自信があります。最近太ってきたせいで着る服がありませんが、太ってきたのであったかいです。 Twitter(@syuty)・Facebookから友達申請よろ!